ええっ!!
お前クイーンて「聴いてない」に該当してたのかよ?!
・・・という非難の声が全国からうねりとなって突き刺さりそうです・・・が、とりあえず落ち着いて下さい。
今回聴いてみたのはクイーンの「The Miracle」というアルバムである。

実はこのアルバムこそ、クイーンのオリジナルスタジオ盤の中で唯一「聴いてない」アルバムだったのである。
「聴いてない」アーチストを量産してきた自分だが、クイーンは数少ない「聴いてきた」バンドだ。
聴いた順序はかなりバラバラだが、「戦慄の女王」から「メイド・イン・ヘヴン」までのスタジオ盤に加え、「Live Killers」「Live Magic」も聴いている。
ただしCDとして持っているのは「Queen II」と「華麗なるレース」だけだが。
自分のリアルタイムは「The Game」、シングルで言うと「Crazy Little Thing Called Love」の頃からだが、3歳上の姉はもう少し早くから聴いており、少なくとも「世界に捧ぐ」あたりから自分もクイーンの曲を耳にしてはいた。
ヒット曲ももちろん好きだったが、「You And I」「The Millionaire Waltz」「Bring Back Leroy Brown」「Rock It」「Coming Soon」などのアルバムにひっそり納められた名曲を掘り起こすのも好きだった。
リアルタイムで聴いていた頃、クイーンは絶頂と酷評をそれほど間をおかずに経験する。
絶頂はもちろん「Another One Bites The Dust」である。
それまでのクイーンサウンドとは明らかに違うファンキーなディスコティックナンバー。
全米1位を獲得したこの曲、しかもジョン・ディーコンの作品である。
酷評はその次のオリジナル盤の「Hot Space」。
さらにダンサボーな路線を押し進めたこのアルバム、世間の評価はさんざんだったし、自分も未だによいと思えない。
その後の「A Kind Of Magic」でさらに何かが違うと感じ、自分はいったんクイーンから離れることになる。
そして「The Miracle」がリリースされたが、聴くことはなかった。
「Innuendo」を聴いたのはフレディの死後である。
能書きはさておき、まずは聴いてみよう。
語るのはそれからだ。
・・・・聴いてみた。
1.Party
アップテンポのロックナンバーだが、路線としては「A Kind Of Magic」からの延長である。
悪くはないが、この路線にいまいちなじめなかったのも事実だ。
1曲目からなんとなく不安な立ち上がり。
2.Khashoggi's Ship
これもハードロックだ。
どこかエアロスミスやツェッペリンを思わせるサウンドである。
3.The Miracle
この曲は「Greatest Hits 2」で聴いていた。
後期ハードロック路線に、前期オペラ路線を融和させた感じ。
ただしオペラのニオイはもうそれほど濃くはない。
エンディングもかなり淡泊だ。
4.I Want It All
この曲も「Greatest Hits 2」で聴いたことがある。
雰囲気は「The Miracle」とそう変わらない。
フレディのボーカルが少し重く感じる。
5.The Invisible Man
ややファンクなナンバー。
歌詞にCIAやFBIが出てくるのは、ビートルズの「Dig It」の影響か?
フレディのボーカル、やはり声に少し濁りがあるように聞こえる。
すでに病気の影響がでていたのだろうか。
6.Breakthru
ここまで聴いた中では一番ノリのいい曲。
「The Works」あたりのサウンドにも近い。
クイーンとしてはむしろスタンダードな音だ。
4人のパートがしっかりしている。
7.Rain Must Fall
少し趣の異なる、サンバ風のリズム。
クイーンにしては珍しい試みかもしれない。
曲から連想する色はオレンジである。
8.Scandal
どことなく悲しげな、ミドルテンポの曲。
もう少し壮大なロック・オペラを期待したのだが、大きな転調もなく終わる。
ここまでのどの曲もそんな感じである。
9.My Body Does Me
さらに哀愁を帯びたブルース調のサウンドだが、いまいち盛り上がりに欠ける。
正直、かなり退屈になってきた。
10.Was It All Worth It
クイーンが手がけてきたサウンドやアレンジがたくさんちりばめられている。
しかしこれまでのクイーンを超えるようなものがない。
11.Hang On In There
これも残念ながら小さくまとまった作品にしか聞こえない。
所々転調はあるのだが、盛り上がる前に終わってしまった。
12.Chinese Torture
ブライアンのギター中心のインストナンバー。
これもなんつうか曲というよりギターの練習の音を録音した、という感じである。
最後にボーナストラックとして「The Invisible Man」の12インチバージョンが入っている。
感想。
うーん・・・
これが聴いてないことに長い間引け目を感じていた、クイーンの中で唯一聴いてないアルバムだったのか・・
もう少し感動があるものかと思っていたのだが。
正直、物足りないアルバムだと感じた。
「The Miracle」や「I Want It All」が目玉だと思うが、核となるような壮大な曲がもう1つあれば印象は違っていただろう。
全体としても思ったより短い曲が多く、エンディングにあまりこだわりがなく淡泊にフェードアウトしてしまう。
アルバムのコンセプトもあまり伝わってこないような構成だし、曲順が変わっても気にならないかもしれない。
後期クイーンに多いハードなナンバーが、このアルバムでも大半を占める。
楽しい感じの曲や壮大な組曲構成のオペラ・美しいバラードといったお得意の展開はなかった。
初めてクイーンを聴いてから(驚いたことに)25年以上の歳月が流れており、当然ながら自分もそれだけ歳を重ね、もはやラテカセの前でFM番組に耳を傾けてポーズボタンに指をかけるような純粋な感性はカケラも残っていない。
しかし、それを割り引いてもこの物足りなさはなんだろう?
同じアーチストの作品でも、曲によりアルバムにより好き嫌いや優劣感覚が生じるのは、ふつうのリスナーとしては当たり前なことだ。
もしリアルタイムで聴いていたら?
もし10代でこのアルバムを聴いていたら?
仮定はしてみるものの、感動する自分の姿に想像が及ばない。
敬愛するぷく先輩は、「オペラ座の夜」が最高傑作と主張している。
異存のないところだ。
自分の場合これに「華麗なるレース」「ザ・ゲーム」の2枚が加わるのですが。
クイーンは確かに前期はコーラスを当てた分厚いボーカルとブライアンのギター、それにロジャーのドラムと裏メロのジョンのベースが一体となったところに最大の特徴があったはずだ。
またロジャーやブライアンのメインボーカルが時々あり、バラエティに富んだアルバムが多かった。
「The Works」あたりからボーカルはフレディがほとんどつとめるようになり、コーラスやロジャーの声も少なくなっていったと思う。
このあたりに自分もクイーンから遠ざかった理由があるように感じる。
なぜ後期のクイーンはボーカルをフレディに頼ることになったのだろう?
「フレディの独裁が始まったから」という見方もあるらしいが、自分はむしろ「フレディの求心力が弱くなった」という説が当たっているのではないかと考えている。
フレディ以外の3人は、やはり歌うことよりも演奏のほうが好きなのではないだろうか。
前期はフレディがオペラチックな展開や曲ごとのバリエーションのために「よおし全員で歌うのだ」とバンドを牽引していったと思う。
様々なスタイルのサウンドをふんだんにゴージャスに採り入れ、アルバムやライブを楽しくしてきたのも、アイディアは4人のものかもしれないが、総合プロデュースしてきたのは間違いなくフレディだ。
一方ロジャーやブライアンはハードロックの住人であり、フレディと出会ってなかったらメタルをやっていたんじゃないか?とまで思うのだが、後期のクイーンにハードロックが多くコーラスが少なくなったのは、この2人の「ボクたちはとにかく楽器やるから、キミがひとりで歌ってよ」という意見が強く大きくなってきたからなのではないだろうか。
この勝手な推測に当てはめていくと、「Innuendo」はフレディの残り少ない余命を全員が覚悟した上でのアルバムなので、フレディの意志が尊重され、まだ「The Miracle」よりフレディ好みのサウンドに仕上がっていると思える。
つまり「The Miracle」はクイーン史上最もフレディに力がなかった時期のアルバム、となる・・・
こんな極東の末端リスナーの自分が、根拠もない仮説を語ること自体おこがましいことこの上ないですが、みなさんのお考えははいかがでしょうか。
自分としては最後に聴くことになった「The Miracle」、残念ながら自分の心に響くものはそれほどありませんでしたが、すべてのアルバムを聴くことができたという達成感はありました。
これからもきっと自分の中では「オペラ座の夜」「華麗なるレース」「ザ・ゲーム」がヘビーローテーションになるでしょう。
今後は自信を持って、「全アルバムを聴いた中でやはりこの3枚が最高だ!」と言うことにしたいと思います。
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