聴いてみた 第189回 ジョン・レノン その3

今日聴いてみたのはジョン・レノンの「Mind Games」。
積年の課題であるジョン・レノンの未聴盤鑑賞だが、学習はちっとも進まず、前回「Imagine」を聴いたのはもう5年も前である。

ファンなら誰でも知ってる話だとは思うが、あらためて制作経緯を調査。
「Mind Games」は73年の作品。
当時のジョンの生活は、やはり安定したものではなかった。
この年の3月、アメリカ出入国管理局は、滞在延長申請を却下した後もアメリカで政治活動を続けたジョン・レノンに対して、国外退去命令を出した。
命令に反発したジョンとヨーコはニューヨークで会見を開き、領土も国境もない架空の理想国家「ヌートピア」の建国を宣言し、アメリカ政府の対応を痛烈に批判。
ジョンは退去命令撤回を求める訴訟を起こすが、判決が出るまでの間もずっとFBIに行動を監視され続けた。

本業の音楽活動でもジョンは窮地に立たされていた。
前作「Sometime in New York City」は、ストレート過ぎる歌詞やジャケットにニクソンと毛沢東が裸踊りしている合成写真を使うなど過激な内容がゆえに、全米ビルボードが48位・キャッシュボックスは26位でいずれも10位には届かず、商業的には失敗となった。

より受け入れられるアルバムを作る必要があったジョンは、ニューヨークで作曲と録音を始める。
ほぼ1年ぶりの作曲活動ではあったが、「Mind Games」用の全曲を1週間ほどで書き上げた。
ただし決して順調だったわけではなく、電話を盗聴されたり尾行されたりといった状況とストレスの中での創作だったそうだ。

ジョンはジム・ケルトナー、デビッド・スピノザ、ゴードン・エドワーズ、マイケル・ブレッカーなどのミュージシャンを起用し、7月から2ヶ月ほどでレコーディングを行った。
フィル・スペクターには依頼せず、自身でのプロデュースによりアルバム「Mind Games」は完成。
短期間での制作だったにもかかわらず全米9位・全英13位を記録し、セールスとしてはめでたく復活となった。
なお日本での発売時には「ヌートピア宣言」という邦題が付けられている。

Mind-gamesl

一方でこの頃の夫婦仲は悪化するばかりだった。
ジョンが国外退去命令を受けていた間に、ヨーコは永住権を獲得。
それが決定打となって・・というわけでもなかったとは思うが、二人の溝は深まる一方だった。
アルバム「Mind Games」完成後の9月にジョンはヨーコのもとを離れ、メイ・パンとともにロサンゼルスで暮らし始めた。
ジョンは自らの意志でヨーコと別居しメイと暮らし始めたつもりだったと思うが、実はメイにジョンと一緒にいるよう指示したのはヨーコだった。
このあたりの経緯は以前に書いたとおりである。

こうして決して穏やかな状況ではない中で作られたのが「Mind Games」である。
まあビートルズ解散後のジョンはだいたい混乱の中で名盤を作ってきたので、あまりそうした背景を気にせず鑑賞することにした。
果たしてどんな曲が綴られているのだろうか。

・・・・・聴いてみた。

1. Mind Games
タイトル曲でスタート。
この曲はベスト盤にあるので知っていたが、あらためて聴いてみると思ったよりジョンは力強く歌っている。
作り初めた時は歌詞の終わりのほうにある「Make Love , Not War」というタイトルだったが、直接的な表現を抑えた「Mind Games」に変えたとのこと。
同じメロディが繰り返されるシンプルな構成で、感覚的には「Imagine」に近い感じがする。

2. Tight A$
軽快なリズムのロック。
楽しそうではあるが下品な歌詞でどこか皮肉っぽく歌うジョン。
「A$」はケツを意味するスラング「Ass」を書き換えたものらしい。

3. Aisumasen (あいすません)
一転おだやかな調べに乗せてヨーコへの謝罪を歌う曲。
ジョンの情けなくもいじらしい心情が全開の名曲・・なのかもしれないが、「あーすいませんよーこさん・・」と繰り返されるフレーズは、日本人の我々には少し違和感がある。
我が国では男が愛情のもつれの際に女性に謝る時「すいません」はあまり言わないからだ。
試しに夫婦仲が険悪になった時に奥さんに「あーすいません」と言ってみたらわかるが、事態は悪化するだけだよね。
なお正しい?日本語で言うなら「あいすみません」だが、なぜかスペルは「Aisumasen」。
ヨーコか日本のレコード会社が直してあげたらよかったのに・・と思うが、なんでこのまま発表されたんだろう?

4. One Day (At A Time)
これもゆったりしたリズムで、ジョンが終始裏声で歌う。
女性コーラスも当てられているが、どちらもキーが高く少し飽きる。
「僕は魚、君は海」「僕はリンゴで君はリンゴの木」といった言葉を使って、ジョンにとってヨーコが互いにかけがえのない存在であることを語っている。

5. Bring On The Lucie (Freda Peeple)
政治的メッセージを込めたミドルテンポの曲。
副題の「Freda Peeple」はタイプミスではなく「Free the People(人々を解放せよ)」という言葉をもじった造語だそうだ。
歌詞は反戦を訴える内容だが、権力者を攻撃する言葉を使わず、「ひとつ頼みたいことがある、やっても後悔はしないはずだ、今すぐ人々を解放するんだ、殺戮を止めろ」という呼びかけになっている。
デモの段階ではもっと叫んで歌ったバージョンもあったらしい。
メッセージが届きやすいよう抑えたボーカルを採用したのだろうか?

6. Nutopian International Anthem(ヌートピア国際賛歌)
ジョンとヨーコが建国した新国家「ヌートピア」の国歌とされた曲だが、実際には6秒間の無音。
LPではここまでがA面。

7. Intuition
「Intuition」とはあまりなじみのない言葉だが、直感という意味とのこと。
訳詞をたどっていて勝手に感じたのだが、この曲はジョン・レノン版「Let It Be」ではないだろうか。
当時のヨーコとの不仲やアメリカ政権との戦いに疲れていた状況の中、精神をなんとか平常化したいという心情が、「直感を信じて生きていればいいんだ」と自分に言い聞かせる歌詞になったのではないかと思う。

8. Out The Blue
壮大なメロディに乗せたジョンのボーカル。
この曲が最もジョン・レノンらしく聞こえる。
タイトルは「a bolt out of the blue」という言葉から来ており、直訳は「青空から突然落ちてくる雷」だが、「突然」とか「いきなり」「不意に」などという意味で使われるそうだ。
で、突然現れたヨーコによりオレの人生は劇的に変わったよという感謝の歌。

9. Only People
ノリのいいロックだが、この歌も社会的なメッセージソングである。
「People」は主権者としての民衆・人民のことで、ジョンは「民衆だけが民衆への語りかけ方や世界の変え方を知っているんだ、さあ行こう」と、自身も民衆として呼びかけている。
「Power to the People」の続編という見方があるが、確かにそう思う。

10. I Know (I Know)
旋律やリズムは「I've Gotta Feeling」に似ており、また思ったよりベースも動いていて、勝手な感想だがポールの香りを感じる。
・・・と思ったら、この曲について解説しているサイトをいくつか見て納得。
この曲を作る直前、ジョン(ジョージとリンゴも)はアラン・クラインとの契約を終了している。
ビートルズ末期にクラインを排除すべきと言って3人と対立したのはポールだが、結果的にポールの意見は正しかったことがジョンにもわかったため、イントロを「I've Gotta Feeling」に寄せたり、歌詞に「Yesterday」や「Getting Better」を採り入れたのがこの曲とのこと。
様々な解釈はあるようだが、ジョンのポールに向けた謝罪や和解の曲である、という説に共感する。

11. You Are Here
どこかハワイアンな感じのリズムにおだやかなメロディが聴きやすい。
「リバプールから東京までという長い道のり、そんな遠く離れた国で生まれた女(ヨーコ)と男(ジョン)が、全方位に風を吹かせる」「あなたがどこにいようとも、あなたはここにいる」と二人の絆を歌うジョン。
だがこの曲を書いた後、二人は「失われた週末」と言われた別居期間に入る。
そういう情報を仕入れて聴くとやはり切ない気持ちになる。

12. Meat City
ラストはこれもまたジョンのワイルドな辛口ボーカルの重いロック。
個人的には「You Are Here」のほうがエンディングにはふさわしいのでは・・とも思う。
で、タイトルの「Meat City」って何?と思ったら、最初の「Mind Games」と対になっていて「精神ー肉体」という対比を表しているのではないか?という解釈があるそうだ。そうなの?
歌詞もアルバム中一番何を言ってるのかわかんない曲ではあるけど、「指をなめ、チキンをつまんでアメリカを脅した」「中国に行くぜ、自分のために」などのあたりがニクソン政権に対する皮肉らしい。そうなの?

聴き終えた。
まだ比較できるほど聴きこんでいないが、ここまで聴いてみたアルバムの中では一番聴きやすいと感じた。
どの曲も難しいと感じる音がほとんどない、という感想がまずある。
ジョンは大衆受けする音を意識して作ったそうなので、それは自分のような素人リスナーにもわかる気がする。

歌詞もポールを攻撃したり政治家を非難したりといった過激な内容はなく、半分はヨーコに向けた謝罪や感謝のメッセージである。
「Mind Games」「Bring On The Lucie」など反戦や社会的主張を歌った曲も、攻撃的な言葉はあまり使わず、誠実で実直な表現で書かれている。
それに世界中の若者が共感して大ヒットした・・・ということだろう。
「Imagineの焼き直し」「平凡で全曲B級」「B面特集」などといった批判もあるようだが、「Sometime in New York City」の失敗を教訓にした、より大衆に届くようにという戦略のとおりなので、尖ったジョンが好きなファンや評論家には物足りないのかもしれない。

このアルバムではジョンにとってヨーコが大切な存在であるとあらためて告白しているが、それはジャケットにも表れている。
草原に一人たたずむジョンの背景は、山のように大きなヨーコの横顔である。
(裏ジャケットは同じ構図に虹がかかっている)
どこかプログレっぽいアートだが、悪くないと思う。
ヨーコがこのジャケットをどう評価しているのかわかりませんが・・

というわけで、「Mind Games」。
毎回月並みな感想ですが、これはよかったです。
「ジョンの魂」「Imagine」よりも自分の好みに寄ってきたのがありがたかったです。
次回は「心の壁、愛の橋」を聴いてみようと思います。

Mind-games
ジョン・レノン Mind Games
Walls-and-bridges
ジョン・レノン 心の壁、愛の橋
Mind-game

中山美穂 Mind Game

 

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